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渡邉尚インタビュー(1/4)

(左)渡邉尚(ワタナベ・ヒサシ)・・・沖縄在住の身体研究家。ジャグリング作品で出演。地面を使うフロアジャグリングを提唱、世界中のダンス・サーカス界で受賞するなどの活躍を見せている。

(右)尹雄大(ユン・ウンデ)・・・政財界人やアスリート、アーティストなど約1000人に取材しその経験と様々な武術を稽古した体験をもとに身体論を展開。主な著書に『やわらかな言葉と体のレッスン』『体の知性を取り戻す』『増補新版 FLOW 韓氏意拳の哲学』『脇道にそれる』など。

最近は自分がジャグラーだと名乗らない

(尹)ジャグリングには扱っている物を落としてはいけないという原則があります。渡邉さんは、下に置いた状態から始めています。どうしてそのような発想になったのでしょうか?

(渡)昔、タキシード着てたくさんの数を投げるジェントルマンジャグリングというものがあったんですよ。そこからだんだんと崩れて、ボールの数が減っていったんですね。それと同時に格調高さみたいなものも無くなっていって。

僕はその先にあるジャグリングをしたいなと思っていたし、 僕自身もあんまりきっちりしたものが好きじゃないんですね。だから、落とすぐらい良いじゃない、って。

(尹)ひたすらストレッチをされていた時期もあったそうですね。身体の動きの可動域が広がることはそれほど重要だったのでしょうか。

(渡)ストレッチするだけでジャグリングが変わっちゃうんです。単純にみんな肩とか詰まってて、それが伸びるだけで勝手にゆらぎが起こる。僕はゆらぎの中に秘密があると思っていて、ゆらぎを大きくするためにストレッチしているという感じですね。

僕は人間外の形になることを楽しみたい。僕のジャグリングって日常と離れたところに宿るものだと思っているんですよ。だから人の体の形じゃ生まれないなと思っていて。どんどん可動域を広げていって、力を抜いていってゆらぎが起こるようにして、そのゆらぎの中から新しいジャグリングの動きが生まれると、僕は楽しいんです。

(尹)日常の動作から離れていくことはどこで見出しましたか。

(渡)もののけ姫を見た頃ずっと夜中に町内を4足で歩いていたんです。人間のふりをするっていうことがどうしても違和感があって。たとえば社会的には鼻ほじったりしたらいけないじゃないですか。おしりかいてもいけないし。おならこくのもダメだし。
でも生物的に言ったら普通ですよね。生物的に普通のことを我慢することで一体僕らはどのぐらいのデメリットを被ってるんだろう、と思うんですよ。

自然の体の欲求を閉ざすとどこかに不都合が起きるよって、整体の凄い人たちはみんな言うてるんですけど、僕は4足歩行してなかったら死んでたかもしれない。だから僕はそれも整体行為だな、って思ってるんですよ。

僕は足の裏でよくボールを掴むんですよ。逆立ちとか。人間社会ではやらないことだからこそ意味がある。社会的なジャグリングだったらあんまりやる意味がないなと思ってるんです。

最近は社会的なジャグリングが拡大してきたな、と思ってるんです。

前までは、ダンサブルなジャグリングをする人はあんまりいなかったんですよね。でも最近そういうジャグリングも一般の人がするようになってきた。僕はもうここもちょっと渋滞してきたなと思ってるんですよね。

だから最近は自分がジャグラーだと名乗らないで、サーカスアーティスト、身体研究家と名乗っています。

人間社会は凄いしがらみがあるし、よくわからないルールもいっぱいある。その中で自分の動物性に立ち返ることができたら、多分みんな生きていけるんですよ。だからこそ自分の動物性を発見する必要がある。欧米では動物っていうと人間より下位のものって捉えられるけど、僕は動物性が自分の身体にあるっていうことは救いだなと思ってるんです。

(尹)人間と動物の領域が厳しく区分されているからこそ、動物の権利を認めて保護する活動も盛んになるわけです。

(渡)ターザンの主題歌は人間の社会とジャングルの世界二つの世界があるという歌なんですけど、でも現状は全然違うじゃないですか。自然っていうでかい世界があって、人間ってちっちゃい世界があるだけ。欧米の人が考えるとそういう風なものになっちゃうのかな、みたいな感じ。

僕は欧米文化を否定したいとかじゃなく、自分の体の動物性、性質を読むことというのは、今後テクノロジーがますます発達していく中でさらに大事になってくる確信あるんですよね。

ユヴァル・ノア・ハラリも今後どんどんテクノロジーが発達する中で対抗するのは瞑想だって言っていて。瞑想っていうのは自分の呼吸を取り戻すことだしマインドフルネスで、確かにそれは必要なんですよ。いつも前のめりになっていっちゃうので、そうじゃなくて、今ここに落とす、というその時にガイドになるのが動物性だと僕は思ってるんです。

渡邉尚インタビュー(2/4)

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渡邉尚インタビュー(2/4)

渡邉尚インタビュー(1/4)

ノイズを取り除いた結果、自分と道具だけの関係になる

(尹)それは体の構造としてだけではなく、内的なものも含めてですか。

(渡)内的なものも含めてです。でもまずはやっぱりこの身体っていうのは一番社会に接している道具なので、理解できた方がいいと思うんですよ。調子悪くなったらお医者さん行ったらいいって思ってる人が多いけど、そもそも調子悪くなる必要ないじゃないですか。

(尹)ははは(笑)

(渡)いつも腰痛いって言ってる人でも、ああ、前屈したら股関節、骨盤倒して曲げられるようになって腰痛めないのにな、とか、いつも集中力続かないとか首痛いって言ってる人は首が前に出てるからしんどいんだろうな、とか。自分が楽な姿勢なら集中力は長く続くし、自分の楽な姿勢を知ってるか知ってないかで全然生き方が変わるじゃないですか。これ以上有意義な投資はないな、と僕は思ってるんですよね。

だから僕はテクノロジーと共存するのは全然いいけど、もっとターザンがスマホを持ってるぐらいの感じでいいんじゃないかな、って本気で思ってるんですよ。

少なくとも自分はできる限りそれに近づいていこうと思っていて、今この着てる服とかも彼女の手作りなんです。自分のものは少なくとも手の届く範囲の人に作ってもらう。僕はヨーロッパに行く時もこのナップサック一個でいくんですよ。軽いし畳めるし洗えるし。

自分のリソースをどこに割いているかというのは重要なんだなと思って。僕だったら、他のジャグリングとかジャグリング友達とかジャグリングの動画見るとかにはもう全く割いてないんです。それはノイズだなぁ、と思っていて。僕はもともとジャグリングを一人でずっとやってきたんです。だからあんまり他人のジャグリングを取り入れる必要がないんですよ。もちろんいいジャグラーっていうのは世界にたくさんいるんですけど、でも僕のジャグリングとは関係がないって感じですね。

ノイズを取り除いた結果、自分と道具だけの関係になるんです。そうするとそこから自分だけの動きっていうのがやっと思ってくるんですね。ノイズを入れすぎると、それが起こらなくなってくるんです。自分の身体と道具との関係に向き合ってると勝手にイメージが湧いてくるし、勝手に身体も整ってくるし、自動的なものなんですよね。

(尹)身に付けるものを厳選していく。それは住まいに関しても同じでしょうか。

(渡)ここは彼女のおじいちゃんの家なんですけど、家賃0円で住ませてもらっていて。ここを拠点にし始めてもう2年ちょっとぐらい経ってる。2016年の8月に家を解約して、そこからはいろんなところを泊まり歩いたり、野宿したりしてずっと家賃を1円も払ってないで生きてるんです。

今の人が採択してるルールも僕は尊重するし、土地を奪おうとかも思わないし、だけどその中で家賃を払わずにいたらどうなるだろう、っていう実験がまだ続いている感じですね。

いろんなライフスタイルを試したんです。全部自転車で移動するとか全部徒歩だけで移動するとか。公共交通機関に乗らないって決めてた時期もあった。いろんな国にツアーで呼んでもらってお金を使わないで回す、っていうのも全然生活できた。でもあんまり持続性ないなあと思ってじゃあ野宿。でも野宿もお金いるし持続性ないかなぁって。いろいろやってきた結果、身体のことを毎日やるのが僕の仕事かなって、本当に最近、思えたんです。

パフォーマンスは自分のメインの仕事ではない、って気づいたんですよ。ちょうど今朝フランスのロックダウンが発表されて、僕11月3日からフランスに行く予定だったんです。それももうなくなって、なんか、今時期じゃなかったんだろうな、って。

コロナになってオンラインレッスンを始めたらそれだけで生活できるようになりました。20代から50代、サラリーマンとかOL、一番小さい人で8歳の子とかも受けてくれて、僕はそれを定期的に週一で身体を見ていくんですよね。一人の体をずっと長期的に観測することができるようになってきて。僕が今まで得てきたこの身体の知見とかもシェアしてそのフィードバックによって僕はさらにこの身体を深く研究できて、すごく良いサイクルが最近出てきました。

(尹)オンラインレッスンでは、どのような内容を指導募集していますか?

(渡)主に倒立とストレッチですね。その中で僕は非常に強い満足感を感じてしまう。こんなに教えることが好きだったんだ、っていう。本当にこれ自分でも予想外でびっくりしてるんですけど。

渡邉尚インタビュー(3/4)

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渡邉尚インタビュー(3/4)

渡邉尚インタビュー(2/4)

片手倒立をできる人を1万人増やしたい

(尹)教えることで、今の自分の最先端の研究テーマは出てきました?

(渡)最近特に熱いのは倒立ですね。倒立って難しいっていうイメージありますが、倒立ってめちゃくちゃ簡単なんですよ。バランス芸だから、バランス取れてたら力いらないんですよね。

日常生活で逆さまになること、ないじゃないですか。身体には定期的にショックを与えない固まっていっちゃうけど、逆立ちしたら手も上げるし四十肩とかもならない。教えてて分かったんですけど、逆立ちする上でいらない力を使わないようになって行ったら、だんだん背骨とか首の位置とか股関節の関係とか整ってきて、みんな体が長く緩くなってくるんですよ。みんな身体が綺麗になっていく。ますます逆立ちは上手くなりたいし、研究していっぱい教えて逆立ちのことを知りたい。

僕の理念としては人間の意識を持たないでジャグリングをしたらどうなるか、と思ってるんです。僕は手を足に足を手にしたい、逆転人間になりたいと思ってるんです。僕の進化は、そうなってるんです。みんなそれぞれ違う進化があるんですよね。あの人は馬タイプだな、とか、あの人は外に出なくて罠をかけたりしてるからクモタイプだなとか。みんなそれに合った生き方になって行かざるを得ないんですよ。クモがチーターの真似できないんです。

人権が平等とかの弊害だと思うんですけど、人権は平等ですけど人によって得意なことは違うじゃないですか。身体によってできることも違うんですよね。

できることをやったらいいじゃん、なんか人のことを真似しなくていいじゃん、って思うんですよ。自分の体のこと聞いたら自分がやりたいこともわかるし、自分の健康法も発見できるし。今の人生において自分の体以外に聞くメンターなんていないじゃん、って思うんですよね。

(尹)人間が二足歩行になった時点で、ある意味逆さまな世界を生き始めたのではないかと思います。身体の構造としては四足歩行をとどめつつ二足歩行をしている。身体の持っていたそれまでの名残と人間が獲得してきた能力や文化、技術のあいだで葛藤が生じている。だけどもう四足歩行に戻ることはできないから、葛藤にまみれていくことが社会性を獲得することにもなるわけです。

(渡)倒立って先入観がない方がうまくできるんですよ。社会が与えてくる社会的倒立みたいなノイズがあるんですね。

体操の人って前に寄りすぎてしまって手首に負担がかかってるんですよ。けど僕の倒立は持久系なので、かかとで立つんです。そうすると手首を傷めないんですよ。でも倒立のイメージがこう、って思っている人は認知がずれてる。

で、その認知を揃えていくことなんですね。体がどこに向いているかわかるみたいな。これが結構あらゆることに当てはまるなと思っていて。その人が何をしたいか、何を見てるのか、ビジョンが曖昧だとできないんです。

だから僕は倒立でも、どういう倒立がしたいの、ってよく聞くんです。

(尹)ただ倒立するだけなのに、その人の身につけた社会が出てしまう。

(渡)ワークアウト系の筋トレしている人の倒立っていうのは筋肉を見せたいので上水平のしんどい倒立とか好むし、無駄に力使いたがるんです。

あとは倒立でお尻あげられない人いるんです。倒立って最悪一番重い骨盤が手の上に載っていれば絶対立つんですが、できない人には自分が思っているよりやって、って言わないといけないんですよ。自分が知ってる世界やと絶対倒立できないから、もっと未知のゾーンがあるから、そこに行って、って言うんです。

子供が立った時に、立った!ってなるじゃないですか。倒立は、あれを大人になってから獲得する唯一の方法なんです。立てた、ってめっちゃ嬉しそうにするんですね。

子供って立った時になんかこう奇跡みたいな立ち方するじゃないですか。大人でも倒立したらそうなるんですよ。奇跡みたいな感じになるんです。

倒立は人間社会に共存できる一番動物的なことなんじゃないかと思ってるんです。日本に1万人ぐらい片手倒立をできる人を増やしたいですね。

渡邉尚インタビュー(4/4)

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渡邉尚インタビュー(4/4)

渡邉尚インタビュー(3/4)

みんな自分が人間だから同じことができる、って思い過ぎてる

(尹)身体に注目が行かないことの代償として、私たちはたくさんの概念や情報を受け取れるのだと思います。実際に体験してない物事についても知ったり、理解できたりするので、すごいことではありますが、自分の身体に関してはそういうわかり方はできないですよね。

(渡)そうなんですよ。他人の成功論とか、絶対に自分に当てはまらないのに。

これが平等の弊害だと思うんです。教育の機会が均等に与えられてるからと言って勉強しなかったら損という話でもない。

そんなことよりも、もっとみんな自分のことをやったらどうなるんだろう。

人間もやっぱり進化してるはずで、もしかしたら将来的にある人間同士では生殖行為ができなくなるかもしれない。ウマ系の人たち、チーター系の人たち、イルカ系の人たち、虫系の人たち、みたいな感じで分かれていくのも面白いなと僕は思ってるんですよね。そこまで分かれてくれたら悩む必要ない。今って自分が何者かわからないから悩んでるわけじゃないですか。

みんな自分が人間だから同じことができる、って思い過ぎてるんですよね。

例えば、歳を取ったら成人病になるから、糖尿病とかなるから、癌になるから、とか。あれも人によってそんな全部なれないですよ。糖尿病は、まずたくさん食べない人はならないじゃないですか。だから自分が全ての可能性を持ってる、何にでもなれるとポジティブにもネガティブにも思いすぎなんですよね。

(尹)ジャグリングに出会った時から極めるのではなく、ジャグリングはあくまで「探究すべき何かの入り口だ」と思っていたのですか?

(渡)初めは、とにかく7個ボール投げられるようになりたかったんです。これでプロになろう、これで食っていこうと思って大学を休学したんです。

そしたらある程度のところから上手くならなくなって、すごいしんどくなっちゃって、ボール触って投げようとしたら涙出てくるようになっちゃって。僕はジャグリングを続けたかったんだけど、続けられない身体になっちゃって。

その中でどうしたらいいのか、って時に横でブレイクダンサーたちが練習していて、気晴らしに一緒に練習するようになったんです。そしたら逆立ちの才能があったのか、上手くなってて、そこから徐々に徐々にジャグリングもまたできるようになってきて。

だから頑張ることは僕にとって害悪なんですよね。頑張るって言うことはそれは才能がないか認知が間違ってるって言うことだよ、って認識するんですよ。

人にストレッチや倒立を教える時もその人が一番やりやすい方法でしか僕は教えないんです。ジャグリングもたくさん投げるのが向いてなかったらさっさと3ボールにしたらいいじゃん、3ボールが多いんだったら2個でもいいじゃん、って思ってるんですよ。で最後一個のボールを手放したら人はダンサーになるんです。

だからダンスとジャグリングの境目もないし逆立ちとジャグリングの境目もない。

(尹)なるほど。認識が変わることでジャグリングそのものの定義も変わりますね。

(渡)やっぱりこうじゃないといけない、って思ってることが一番弊害なんですよね。だから体を鍛える時にこうじゃないといけない、と思って鍛えてる人って絶対痛めるんです。

現在の世の中にあるバレエとかブレイクダンスとかなんでもいいんですけど、その中に自分に適合するダンスがない可能性の方が、どう考えても高いですよね。

だからブレイクダンスをちょっと自分風にアレンジしたものじゃなくて、もう自分から起こして行った方が早いんじゃないか、って僕は思うんです。僕はそう言うふうにみんなが自分の身体から起こした動きとか生き方をするようになった世界が一番自然界に近いって思うんですよ。

四足歩行が動物のあり方である、って思うのがまず自分の固定概念だったんです。だって四足歩行は動物のものじゃないんですよ。蜥蜴と馬で全然四足歩行違いますし。トリなんて二足歩行だし飛ぶし、とかだから。

四足歩行も別に絶対じゃなくて、結局は動物っぽくしないといけない、とか、ジャグリングっぽくしないといけない、とか。それが一番到達するために邪魔なものなんですよね。

(尹)型とか決められた形が好きではないという印象を受けました。

(渡)だって、型っていうのは僕らが地層だとしてみんなの体が化石発掘場だとして、型はたまたま綺麗に出土された化石なんですよ。みんなそれのように掘ろうとしてる感じがするんです。

でもまだまだ未知の型が埋まってるはずなんですよ。人間の歴史なんてめちゃめちゃ短いじゃないですか。だからなんで短い人生を使って他人の、出土したものの真似をするんだろう、っていうぐらいの気持ちで僕は思ってるんですね。

もし世界がまだGoogleマップもなくてコロンブスもいなくて全然発見されてない状態で近くに未知の島があったら、そこぐらい泳いで行くんじゃないって僕は思う。僕は自分ができる型を発見する、そっちの方が遥かに人類に貢献もできると思うし、役割だと思うんです。

(尹)どうも、長い時間ありがとうございました。

渡邉尚のジャグリングはこちら(公開は終了しました)
https://cirquedumetaverse.com/index.php/226

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DJ ONIインタビュー(1/3)

DJ ONI・・・DJ/Track Maker。国内外の5 スターホテル、大使館でのイベントに数多く参加、インド、中国、ミャンマーの5starホテルツアーや、ヨーロッパ、アジア各国でのビックイベントに多数出演。シルクドメタバースのほとんどの楽曲は彼とピアニストJUNKOがTRACK MAKEしている。

動物として音をどう感じるのか

ONIさんがレストランでDJをしているとき、音楽を変えることでお客様にお酒を飲ませたり会話を止めたりして、客の回転率を上げていたのを目の当たりにしたことがあります。音楽にヒーリング効果があるのは知られていますが、食欲まで変えれるとは知りませんでした。

(ONI)例えば、雷の音とか、車の音とか、ガラスの割れる音とか、そういう音を聞くと哺乳類って警戒モードに入るんです。緊急事態だからそれに対処しないといけないので、味覚を止めてしまう。

そんな音響心理学に興味が出たのはいつ頃でしょうか。

(ONI)片っ端から音に関する本を読んでいた時があって。ダンスミュージックは楽譜の少ない反復の音楽なので、コード進行などの音楽理論より、より古代の、動物が音をどう感じるのかに興味がありました。例えば、一度警戒音で体を強張らせてから、解放に持っていくとものすごい落差が生まれる。喧嘩をした後に仲直りみたいな(笑)
そうすると単調なダンスミュージックでも、感情の落差が作れる。

つまり、ダンスミュージックのために音響心理学を学んだ?

(ONI)そうですね。DJを始めたころ、色んな音を駆使してストーリーを作ろうと思っていました。他にも、温度もコントロールしていました。人は夏になると楽しくなり、冬になると体が強張る。なので、フロアを最初ガンガンに冷やしておいて、後半に向かって温度を上げていく。すると勝手に汗が出てくるので、めちゃくちゃ盛り上がって騒いで踊ったと思い、ONIのDJはもの凄い良かったな、となる(笑)。

世界で通用するDJへ

DJを始めたのは、いつごろですか?

(ONI)元々はDJをするつもりは無かったんです。小学生の時に初めてスティービーワンダーをレコードを買って、中学では自分の好きな音楽はヨーロッパの電子音楽だと気づきました。学生のころクラブに行くのは好きで、そのうちDJの友達が出来て、そのとき大量の音楽を集めていたのでDJを勧められたのがきっかけです。

その頃、僕の周りはみんなヒップホップ方面に行ってて、加藤ミリヤさんのプロデューサーとかMISIAのマネージメントとかを同級生がやってて。でも僕はやるなら日本国内で終わらせたくないなというビジョンがあって。そうなると、ヒップホップは英語もネイティブじゃないアジア人じゃ絶対だめだな、と。

それならなんだろうという時に、ケンイシイさんがイギリスのテクノチャートでNo1になり、なるほどと。言葉がない、人種関係ない、宗教も関係ない。それで、テクノ・ハウスに。もっと新しいシーンを作っていかないと、と僕はMySpaceでプログレッシブハウスでずっと国内一位になっていました。黒人だったらヒップホップやってたと思う。

テクノに拘りがあったわけではなく、世界で通用する新しい音楽をやろうとしていたと。イギリスに行くきっかけは何ですか?

(ONI)DJを始めた頃、トッププレイヤーが日本に来たときは全部見に行ってました。バックヤードにも入れて貰って。それでプレイを覚えて、家に帰ったらその技を朝から練習して。テクニックは全て盗んだんだけど、日本にシーンがないから、頑張れば頑張るほど孤立していって。
ある日の朝の五時に、脳に来る情報の8割は視覚だというからそれを潰せばものすごい集中ができるんじゃないかと思い、目を潰そうとアイスピックを持っちゃって。そのとき、なにをやってるんだろう、と。

良かった、冷静になって。

(ONI)それで非常に危ないなと思い、壁に向かってDJをするのをやめて、世界を全部見て回りました。学生でしたし。ニューヨーク、シカゴ、ニューオリンズ、それでロンドンに行ったときに自分が求めていたシーンがあったんです。それで、いつかロンドンに住もうという思いがありました。

その後は自分の音楽を自信をもって勧められるようになり、どんどん伸びていって国内のほとんどのクラブでプレイできたし、アゲハのレギュラーももらえて。その頃は会社員もしていたんだけど、DJが夜だけではなく平日の昼のパーティにもレギュラーが入って、もう限界ですよ。ついに両立が出来なくなって、それで全部辞めて渡英しました。

ONIインタビュー(2/3)

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DJ ONIインタビュー(2/3)

サウンドアーティストへの変化

(ONI)渡英したときも、DJを本業にして食べていこうと思っていたわけじゃ無くて、一番レベルが高いところに挑んで、踏ん切りを付けるきっかけになればと思っていました。

でも、若手の登竜門と呼ばれるクラブでレギュラーを貰うなど、通用しちゃったと。

(ONI)そこから半信半疑で未だにやってます。

そのころから変わらないシーンで活動をされている?

(ONI)それが、少し変わってきたんです。ステファンポンポニャックのような、ホテルで流れるラグジュアリーなラウンジシーンを日本に持ってきました。当然日本には無かったので、Piano with Headphone(DJ ONIとピアニストJUNKOのユニット)は結成一年でシーンのリーダーになりました。

後は、日本の人とコラボしないとと思い、三味線や日本舞踊の人と作品を作りました。

今はアナログシンセサイザーをたくさん使われてますね。

シンセサイズ音楽の文脈なので古くから在るMORGなどを使いつつ、立体音響などの新しい作品としてテクノミュージックをアップデートしています。

より新しい物を作るために変わってきている。

視野は広くなりました。誰かの真似をしたい、あの人みたいな曲を作りたい、みたいなものは無くなりました。

それよりも最近はアートの領域に行っています。先端の音楽を使って、音楽のアート作品を出す。新しい物を出すところは変わっていない。

アートシーンに作品を出し始めたのはいつごろですか。

プロジェクションマッピングですね。それをイギリスで見て、その頃はまだ日本に無かったので広めたいと思い、Michiくん(現プロジェクションマッピング協会代表)を焚き付けて。その流れで、当時のプロジェクションマッピングの音楽は日本で一番作っていました。

その後は、今度は自分の作品としてArt Hack Dayで発表し、3位に入り、未来館常設になりました。

カップ焼きそばのお湯をシンクに捨てるとボコンという音がする、それはシンクボコンという未確認音源生物がいるんだよ、という作品でしたね。なるほど、プロジェクションマッピングは映像主体でしたが、次は音が主体になったので、表に立った感じですね。

アートシーンに作品を出すことで、どんな事を目指していますか?

僕はテクノの作家ですが、テクノロジーを使った音楽もテクノミュージックとしてアップデートしても良いんじゃないかなと思っていて。

例えば鴬張りをアップデートして、家族が通る時は良い音が流れ、不審者はセコムに通報されるとか。

でもコロナで時代が一変してしまい、世界がロックダウンし、ストレスフルになり。違う事が必要なんじゃないかと思っています。

ただ好きな音楽を作るのは僕にとって全然面白くなくて、なにか意味合いを入れていかなければいけない。いま時代が求めているのはダンスミュージックではなく、癒やしの音では無いか。

そこで、家の中で寝そべって音と映像に没入できる癒やしの12,3分の作品を作ったんですが、作品を作ったんですが、本当にリラックスできるんですよね。なかで寝ちゃった人が居たりとか。

そういう、社会に実装して役に立つ作品を作っていきたいです。

DJ ONIインタビュー(3/3)

 

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DJ ONIインタビュー(3/3)

社会貢献

社会貢献でいえば、東日本大震災の時も沢山活動をされていました。

音楽的にはPray for japanという3分11秒の曲を作りました。ビートを時計の音にして、また平和な時が刻めますようにという願いを込めて。著作権もフリーにして。

僕が被災地に行ってテクノミュージックをかけても誰も喜ばないなと思っていたとき、映画監督のAmiyさんが被災地で映画を上映しようとしていて。それも自分の映画ではなく、ドラえもんとか三丁目の夕日とか、大手配給会社に掛け合って。
僕は背が高いのでスクリーンが立てやすくて、音響周りもできるので、東北を一緒に回って。

月に一回、仮設住宅を一件一件お菓子をもって訪ねていく。すると、普段全然出歩かない人たちが出てきてくれて、お祭りみたいになってくれて。

僕らが回っていたところは、自殺者が一人も出なかった。エンターテインメントとして出来ることがあるなと思って、そういうことをこれからもやっていきたいですね。

僕は2chの型に嵌まらなくてもいいかなと思っていて。テクノってジャンルだったり、Spotfyだったりとか。テクノ業界のDJから見るとONIは最近どうなっているんだって言われるんですが、まあいいかな、と。

サウンドアーティストとして活動されていますが、名前としてはDJ ONI なんですね。

プレイヤーとしては、DJです。自分的にはブレていないと思っています。

作品を作る中で何かを参考にしていますか?

テクノロジーの部分については勉強をしています。作品の方向性については、そのとき自分が必要だと思った物について作っています。